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Daisuke Bundo

Daisuke Bundo

分藤大翼
アフリカの熱帯雨林でBaka族の調査研究と記録映画の制作をおこなっています。
長野県松本市在住。

 

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アフリカ/映画との距離

「アフリカ/映画との距離―映画『ブラッド・ダイヤモンド』をめぐって」 (『オルタ』2007年7月号 :特集 「アフリカ―紛争ダイヤモンド」に掲載)

■『ラスト サムライ』
 実に見事に人が死ぬ。大砲が火をふき大地もろとも人びとを吹き飛ばす。炎に焼かれ逃げまどう人びとに無数の矢が降りそそぐ。鉄砲の弾に貫かれる人。刀で切り裂かれる人。おびただしい亡骸。『ラスト サムライ』の合戦シーンでは、政府の兵士であれ、それに対抗する「侍」であれ、とにかく大勢の人が死ぬ。監督のエドワード・ズウィックは撮影の前の晩に、様々な負傷のさせ方を寝ころんで考えるのだそうだ。そして、そのイメージを実現するために、たくさんのスタッフがそれぞれに技術の粋を尽くす。500名のエキストラ。ニュージーランドの丘陵地で、20分足らずのシーンを撮影するのにかけられた日数は31日。主演の俳優たちは貸し切りの豪邸からヘリコプターで現場に通ったという。総制作費300億円。筆者は、この途方もなく贅沢な作品を、迂闊にもアフリカに向かう飛行機の中で見てしまった。狭い座席の背中についている、とても小さなモニターで。それでも、全編にわたってやたらと映像が美しかった印象が残っている。物語は忘れたが、ずっと眺めていられたことは覚えている。「映画館で見なければ」と思ったものの、結局見逃してしまった。その年『ラスト サムライ』は日本で1410万人の観客を動員し、洋画の興行成績でトップに輝いた。


■映画との距離
 同じ監督の作品だということ。それが『ブラッド ダイヤモンド』を映画館に見に行った理由だった。ヒロイン役の目の色が好きだという理由もあったが、とにかくテレビで見てもつまらないだろうと思い映画館に行くことにした。少なくとも「紛争ダイヤモンド」に関わるアフリカの現状を知るために行ったわけではない。それは「侍」に関わる日本の歴史を知るために『ラスト サムライ』を見に行くようなものである。映画は映画であって、描かれている事柄に関心を持つきっかけにはなっても、その関心が映画によって満たされることはない。映画には諸々の限界があり、知るという行為には際限がないからだ。実際に『ブラッド ダイヤモンド』を通じて新たに知ったことは何もなかった。それは筆者がアフリカで調査を行なっている研究者だからというレベルの話ではない。筆者が多少詳しいのはカメルーンの熱帯雨林に暮らす人びとのことであり、映画の舞台となっているシエラレオネの内戦下に生きた人びとのことは全く知らない。それでも、今なおアフリカの各地で問題となっている、資源の密輸、紛争、難民、少年兵、民間軍事会社といった事柄には関心を持っており、少しは調べて知っている。『ブラッド ダイヤモンド』から知りうることは、その域を出ていないのである。
 しかし、それはこの映画が駄目だということでは決してない。エドワード・ズウィック監督は、アフリカの現状をほとんど知らない人に向けて『ブラッド ダイヤモンド』を作っているからだ。また、そもそもある事態について知る、知らせることが目的であれば、監督は映画よりも活字メディアの方がふさわしいと考えているようだ。監督は次のように語っている。「映画はやはり若者のものであり民衆文化なのです。多くの人は、本や新聞などを読まないし、世の中のことをよく知らない。しかし、映画を通じて観客は主人公や少年兵、難民の姿を目にすることで、アフリカの情況を生々しく思い描けるようになり、ひいては世界を変えることに寄与するようになるかもしれない」(注1)。

■『ブラッド ダイヤモンド』
 『ブラッド ダイヤモンド』は1999年、内戦下のシエラレオネが舞台となっている。反政府軍が侵攻し各地で残虐行為を繰り返し、捕らえた少年を兵士に、壮健な男をダイヤモンドの採掘に徴用している。主人公の一人である漁師も、息子は少年兵に、妻と娘は難民に、自らは鉱夫にされてしまう。そして、送り込まれた採掘場で貴重なピンク・ダイヤモンドを手に入れる。そこにダイヤを狙う傭兵あがりの密売人が現れ、さらに、紛争ダイヤモンドの真相を追う女性ジャーナリストが加わって、ダイヤの行方を巡って物語が展開する。漁師役はベナン出身のジャイモン・フンスー。密売人役はレオナルド・ディカプリオ。ジャーナリスト役はジェニファー・コネリー。『ブラッド ダイヤモンド』は、これらのハリウッド・スターによって輝かしい作品になっており、その光に魅せられて多くの観客がチケットを買い求めている。「ダイヤモンド」と「ハリウッド映画」、両者はどうもよく似ているのである。ともにポピュラー・カルチャーとして作り上げられ、人びとの欲望を生み出し、またそれによって支えられている。「ダイヤモンド」の価値を問い直す本作は、同時に「ハリウッド映画」の価値を問い直す契機をはらんでいる。監督はそのことに自覚的である。「私はこの題材を元にドキュメンタリー映画を作ることもできた。しかし、それでは誰も観てくれないんだ。もしくは、ある村に起こった少年兵の問題についての映画を作ることもできた。しかし、それでは誰も資金を出さないから、そういう作品を作ることはできないんだ」。観客の、つまり消費者の欲望や価値観にしたがって『ブラッド ダイヤモンド』は作られているのである。

■映画との距離
 仮に同じ題材でドキュメンタリー映画が作られたとしたら、両者の違いはどのようなものになっただろうか。スター俳優が登場しないことはもちろんだが、決定的な違いは「人が死ぬ」シーンがめったに登場しないということになるだろう。実際に人が殺される様子が撮影されることは稀だからである。逆に劇映画の本領が発揮されるのは「人殺し」のシーンだといえるだろう。『ブラッド ダイヤモンド』でも色めき立って見えるのは、戦闘や虐殺のシーンである。揺れ動くカメラで描かれる騒乱は臨場感たっぷりで、銃声や爆音の音響効果とあいまって、めくるめく光景に圧倒される。それは多くの観客が、本当にこのようなシーンを望んでいるのだろうかと疑いたくなるほどのものである。出来事の悲惨さに気づくために、これほど多くの人の死を目にする必要があるのだろうか。また、戦闘や虐殺に参加する少年兵の姿がリアルに描かれており、その残忍さが見る人に衝撃を与えているという。しかし、少年たちが兵士として洗脳される際、ハリウッドの暴力映画を見せられていたという話(注2)を重ね合わせると、少年兵と観客の経験には共通するところがあるように思える。また、殺し合っている彼らと、彼らを見殺しにしている観客と、果たしてどちらが残忍なのだろうか。

■アフリカとの距離
 見て良かった映画のランキングが発表されているウェブサイトがある。そこで一時期、『ブラッド ダイヤモンド』が一位を獲得していた。筆者はそれを見て複雑な思いにかられた。「見て良かった」とはどういうことなのだろうか。映画として出来が良かった、アフリカの情況について知ることができて良かったなど、観客にとって良かった理由が様々にあることは分かる。しかし、内戦を経験している人にとっては、映画化されたような事態がなければ良かったに違いない。そして、そのような事態が映画を観るような人びとによって引き起こされている(かもしれない)としたら……。『ブラッド ダイヤモンド』がアフリカを舞台とし、ダイヤモンドを対象としながら描いていることは、世界中で起こっている無闇な消費活動の連鎖であり、訴えかけようとしていることは、消費者である観客が自分の生活や価値観を見直すことである。『ブラッド ダイヤモンド』の評価は、観客のその後の生き方にかかっているといえるのではないだろうか。
 興味深いことは、アフリカで撮影を行なったスタッフが、「ブラッド・ダイヤモンド・チャリティ基金」を設立し、アフリカの人びととの交流を継続させようとしていることだ。アフリカで現地の人びとと共に過ごすことで、スタッフの意識が変わったのである。そして、他にも映画によって意識が変わった人びとがいる。ダイヤモンド業界の人びとである。ワールド・ダイヤモンド・カウンシルのウェブサイトでは、ダイヤモンドがいかに人々の生活を向上させているかという情報が公開されている。対して、アムネスティのウェブサイトでは、ダイヤモンド流通の問題点が指摘されている。このような関心や議論を喚起できるところが映画のすごいところである。振り返って、十年来アフリカに関わっている者として、自分は何をしてきたのか、これから何ができるのかを自問し、『ブラッド ダイヤモンド』の長い長いエンド・クレジットを眺めながら、筆者はしばらく立ち上がることができなかった。

(注1)エドワード・ズウィック監督のインタヴュー 
(注2)伊勢崎賢治「知られざるシエラレオネ紛争の10年」『ブラッド・ダイヤモンド』パンフレット



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